2014年11月3日、神奈川県立音楽堂で行われた、宮内康乃氏作曲の聲明(しょうみょう)曲の
撮影ディレクションをさせていただきました。

作曲家の宮内康乃氏は、MATHRAX坂本の大学院(IAMAS)時代の先輩でもあり、
只今、同じアトリエで活動するアーティスト仲間でもあります。
今回は、宮内氏の興味深い活動をより広く紹介するために、
公演の際の様子を撮影させていたただきました。

撮影は、photographer KENJI KAGAWAによるものです。
 

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聲明(しょうみょう)とは、仏教教典を僧侶が旋律をつけて唱える声楽であり、仏教音楽のことをさします。

今回の公演「音楽堂で聴く聲明 四箇法要 -花びらは散っても花は散らない」は、
東日本大震災で亡くなられた方々のために鎮魂の祈りを捧げ、
被災された方を励ましたいという想いから、
震災で起きた事を世代を超えて語り継ぐために再演されました。

演目は、752年に東大寺の大仏開眼供養の際に唱えられたと記録にある
日本最古の聲明曲「四箇法要(しかほうよう)」。
そして、宮内康乃氏が2012年に作曲・初演した現代の聲明曲「海霧讃歎(うみぎりさんだん)」が
構成されたものでした。

当日の様子を少し紹介いたします。

 
 
 

神奈川県立音楽堂

当日は、秋らしい快晴。

今回の公演の舞台である神奈川県立音楽堂は、横浜の桜木町駅から少し歩いて
紅葉坂という坂を登ったところにあります。
建築家、前川國男氏によって設計されたものだそうです。

柱のコンクリートには、あえて木材の模様がつけられていたり、
木製の手すりの形も、現場で長さを調整しながら作られたものなのでしょうか。

私たちの借りているアトリエ(建築家・吉阪隆正設計による八王子セミナーハウス)にも、
このような建築の共通点が多くみられるのですが、
二人ともル・コルビュジェのもとで働いた経緯があり、のちに国立西洋美術館も供に監理を担当しています。
 

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この時代の建築には、この時代ならではの考え方や、ものの意味が至るところに込められていて、
柱ひとつから空間全体まで、味わい深いものでいっぱいでした。

 
 
 
 

四箇法要(しかほうよう)と 海霧讃歎(うみぎりさんだん)

宮内氏の作品「海霧讃歎」は、日本最古の聲明曲「四箇法要(しかほうよう)」のちょうど中間と、
この聲明曲の形式に寄り添うようにして、終盤にも形を変えて演奏されました。

天台宗と真言宗が、それぞれ舞台と客席側に分かれ、同じ聲明曲を入れ替わりで歌うという流れの中、
宮内氏の作品で、二つの宗派の聲明がホール全体を包み込むような形で入れ替わるという仕掛けは、
人々を不思議な体験へと導く大きな要素となっていました。
 
 
_DSC7805sm_07_DSC7882_DSC8077四箇法要〔唄(ばい)・散華(さんげ)、梵音(ぼんのん)、錫杖(しゃくじょう)〕

 
 
 

海霧讃歎について

宮内氏作曲の「海霧讃歎」は、津波により犠牲になられた女性が生前に詠んだ『和歌』に感銘を受け、
今回の聲明曲の題材としたそうです。以下がその和歌です。
 
 
  海霧に とけて我が身も ただよはむ   川面をのぼり 大地をつつみ
 
 
実際に宮内氏が陸前高田の地を訪ねた際、海岸沿いには海霧が立ちこめる情景があらわれ、
和歌の意味が身にしみて感じられたそう…。
また「自然を賛美、賞賛し、同時に畏敬の念を抱く。しかしいつかはそこへ自分も還っていく」という、
死生観や無常観に共感したのだといいます。

聲明が本来祈りの行為であることを意識して、現代の新たな聲明曲となるよう
海霧讃歎は作曲され、演奏されました。
 

_DSC7926_DSC7924客席から鐘を鳴らして声の移り変わりのタイミングを指示する宮内氏

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曲中は、和歌を唱えるお坊さんの姿や聲(こえ)が、自然の脅威を思わせる情景にも、そして人々の声にも、
あるいはたくさんの音の中で、時間の流れが停まったりしているようにも感じられました。

その瞬間はさまざまな情景が交差し、観客の方々にも当時の様子や、
自分自身の内面にあるものを呼び起こしたのではないかと思います。

演出家の田村博巳氏は、構成演出ノートの中でこう書き記していました。
今思えばまさにそのような時間だったと思い返します。

「今、仏の前に跪き祈る時間は、自分の願いを叶えてもらうということより、本当に幸せを感じるため、
 自分にできることは何か、何をしたらよいかを考えさせるように思う。」

 
 
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▲実際の聲明の映像(ダイジェスト版)もぜひご覧下さい。
 
 
MATHRAXでは、自分たちが行う事ができる社会貢献として、
周辺のアーティストを私たちなりに紹介させていただくような活動を行ってきました。
このことは、私たちの視野や概念をもっと広げ、さらに深い学びを促してくれる契機となっています。

宮内氏は、最近では新しいジャンルの中で作曲演出を試みたり、歴史ある音楽にも深く関わることで、
更に自分の音楽の作曲方法、ルーツ、社会との関わり方を探り続けています。
今後も活動から目が離せません…!

 
ご興味のある方はこちらのリンクもどうぞ。
 作曲家・宮内康乃 webサイト
 宮内康乃主宰 音楽パフォーマンスグループ つむぎね

 
 
今回の撮影に関して多大なるご協力をいただきました宮内氏、そして天台宗、真言宗のお坊さん方、
演出家の田村博巳さん、音楽堂館長の伊藤さん、関係者の皆さまに重ねて御礼申し上げます。

また舞台の空気を新鮮な目線で捉えてくれたKENJI KAGAWAにも感謝いたします!

 
 
MATHRAX