2018年の9月から10月にかけて宮城県大崎市立古川南中学校にて、今年卒業する3年生と一緒に卒業制作「ひかりのこびん」を制作してきました。その様子を少しだけ紹介いたします。
ひかりのこびん
卒業制作「ひかりのこびん」は、生徒たちの「記憶の中の光」の印象、色、質感を詰め込んだものです。
こびんの側にあるアイテムは、その記憶にアクセスするためのカギ。
そのアイテムをこびんのフタに近づけると、生徒たちの記憶の中の光が蘇るようになっています。
文化祭での展示の様子
制作|記憶の中の光を思い起こす
今回は、自身の大切な思い出やその時の感覚を身近に感じられるような作品を目指し、
記憶の中の光をテーマに「ひかりのこびん」の制作を行いました。
自分の印象にのこっている記憶、忘れられない記憶、心の中に残しておきたい記憶を思い浮かべ、
その時の光はどのような様子だったのか、思いを巡らせてみることから始めました。
光の様子を色や言葉で描写
風景としての光、情景としての光、体験としての光。
そこに色はあったのか、温度や湿度、触感なども感じられるのか、その時自分はどのような気持ちだったのか、
その光の様子を思い出して描写したり言葉にしてみたりしながら、少しずつ近づいてみます。
LEDは電球色とカラーを組み合わせて使用
今回は、電気を絵の具のように使いたいと考えている私たちの制作スタイルも取り入れた内容。
古川南中学の校章を入れたオリジナルの電子基板に
LEDや電池ボックスを組み合わせていくところからはじめました。
オリジナル基板と電子部品
こびんやそのフタに、記憶の中の光の要素を取り入れた意匠をほどこしてもらいます。
制作中は誰しも、慣れた手法や、好きな色や形につい寄ってしまう傾向があるのですが、
もう一度、記憶の中の光の感覚を思い出し、自分の表現に向かって試行錯誤している様子が伺えました。
作品の紹介
171名分の作品すべてをこちらのページに掲載できないのが残念ですが、
生徒たちのみずみずしい感性が表れているものをご紹介します。
(展示中は、こびんとキーアイテムが離ればなれにならないよう紐でつないでいます)
自分にとって最高の光・後輩たちとの思い出をつめこんだ作品
野球の試合の時に感じた光がバットで蘇る作品
水にもぐって上を見上げた時の冷たくやわらかい光
震災で街が停電になった時に見上げた星の光
夜のものしずかな光
茶道の道具のような美しい佇まい
釣竿の先を水面に落とすと光が灯る
大好きだったドリンクを再構成した作品
手作りのゼッケンに部活への愛と情熱
展示を見にきた子供達にも大人気
和を感じる美しい色使い
自分の中の混乱を表現したという素直で率直な作品
自然素材の力強い質感
最後にフタに波を描き足して
生徒の皆さんと一緒に制作に携わっているうちに見えてきたのは、
自分の中にあるイメージに向けてどんどんもぐって行けるということ。
キャラクターが黒い毛に覆われて飲み込まれている様子を表し、
自分の気持ちが混乱している状況を再現してみたという生徒もいましたが、
自分の気持ちに素直になって、制作しながらしばらくその自分と付き合えること、
素晴らしいなあと関心してしまいました。
震災の夜の星を表現した作品は、その時は不安で大変だっただろうと思うのに、
その夜に見たという星の光の作品はとても美しいし、どこか希望を感じさせてくれます。
その生徒の内面を通して現れる作品に、こちらが勇気づけられる気がするのです。
MATHRAX「ひかりのミナモ -Diamond-」
今回の卒業制作では、生徒の皆さんには「記憶の中の光」を思い起こして形にしてもらい、
アイテムを使ってその光を蘇らせることのできる「装置」としての作品を作ってもらいましたが、
それぞれに人や自分自身の気持ちに変化を起こすことのできる素晴らしい作品が出来上がりました。
私たち自身も、今回のようなプロセスを経て作品制作をする時には
ある感覚を思い出し、味わい、深く潜るような時間はとても大切だと考えています。
それは、目には見えなくても自分の中に響いているものごとを眺めるようなこと。
そしてそれらを周辺に共有することは、当たり前のようだけれど大事なことだと思うのです。
今回のこびん制作の表現のために用いた光、音、温度、質感、香り、味などのパーソナルな記憶は、
これからの自分自身に向けての応援メッセージだと言えるかもしれません。
皆さんのこれからの時間が、さらに豊かに、自由に、素晴らしいものになっていくことを願っています。
ご卒業、おめでとうございます!
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開催 宮城県大崎市立古川南中学校
協力 古川ユースウェアサービス株式会社(公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団)
この場を借りて、古川南中学校の先生方、美術ご担当の大坂先生、
彫刻の森芸術文化財団の関さんに御礼申し上げます。
MATHRAX