宗像みあれ芸術祭2025の作品公募にて大賞をいただいた作品《いしのうた》 −音にふれる、時にふれる−のご紹介です。

《いしのうた》 −音にふれる、時にふれる−

 形 態:インスタレーション
 制作年:2025
 素 材:石、木、電子回路、映像
 サイズ:約 W762×D880×H750
 協 力:株式会社美山工房

《いしのうた》−音にふれる、時にふれる−は、宗像で拾い集めた石にふれて体験するインスタレーション作品です。

MATHRAXの久世祥三は、福岡で生まれ新宮町で育ちました。彼にとって宗像は、かつて父親と海で釣りをしたり、大島を家族全員で自転車でかけめぐったりした思い出の場所です。そして昨年他界した父親のことが、昨日のことのように思い出される地でもあります。

 私たちMATHRAXは、作品を制作していると、命とはなにか、人間とはなにか、そして私たちが生きているというのはどのようなことなのか?そんな問いにたどり着くことがあります。「石」は、自然界の中で最も古い存在のひとつです。彼らにとって、我々の一生は、一瞬のことなのかもしれません。しかし、この宗像の自然や人々の暮らし、そして祈りを長い時間をかけて見守ってきた存在でもあり、その記憶を内包していると思うのです。

 人は何かにふれる時、その手ざわりから何かに思いを馳せることがあります。もの言わぬ石たちが私たちに返す言葉やイメージは、一体どこからくるのでしょうか。MATHRAXは、作品の体験者が無意識に石に指先を伸ばしている、その動きや現象の中にこそ、人が生きている根拠があると感じます。祈願殿に並ぶ石たちにそっとふれ、時間を超えた世界と響きあう「いま」をぜひ感じてみてください。

今回の作品には、大島の西側の海岸に流れ着くという「あずき石」を特別に許可をいただいて使用しました。また、作品の配置は、大社内の神宝館で実際に見ることのできる国宝「銅鏡」の三角縁紋様や、三柱の女神を連想させるしつらえになっています。奥の映像は、宗像三女神にまつわる水のイメージ、波や早瀬(ささなみ)を表現し、空間にも流れを作っています。

紫がかった石に白い粒が斑らに入った「あずき石」/神宝館にて展示中の「銅鏡」

宗像三女神にまつわる水をモチーフにした映像(画像は部分)

私たちはこれまでに何度か、石を扱った作品を制作してきました。(《いしのこえ》では、石の声を聞くことができるネイティブアメリカンの話をもとに、人の感覚について考え、《いしのこえとみかげ》では、人と石のお墓の関係についてリサーチしています。)そのうち、普段あまり意識することはなくても、人と石はかなり深くつながっているのかもしれないと感じるようになりました。

そして、石たちがあまりにも長い時間、この地球上に存在していることを思うと、私たちが会ったことのない祖先のことも知っているのでは、という気にもなってきます。もしかすると、神話に登場する人や神様にも会ったことがあるかもしれません。私たちは、石に実際にふれることで、その質感から何かを探り、自らの身体と共にその景色に想いを馳せます。いしのうたとは、その時に奏でられているものでしょう。

宗像大社

宗像大社の秋季大祭「みあれ祭」海上神幸

芸術祭の様子

以下、宗像大社に展示されている杉谷一考氏、クリス・ロメロ氏、田中千紘氏、鹿児島大学細海研究室(HÖSLAB)の皆さん、下田涼子氏と赤間くるみ幼稚園の皆さんの作品を少しだけ紹介いたします。会場の空気感と相まって素晴らしい空間になっているので、ぜひ会場でもご覧いただけますと嬉しいです。

宗像神社で、沖の島と並んで最も神聖な場所と言われる「高宮祭場」。その祭場にに向かう道の途中で、さまざまな作品と出会うことができます。
「高宮祭場」は、神社に社殿が構築される以前の形態だそうで、樹木に囲まれた静かな高台でした。本当に美しく、これは写真には残せないという気持ちに。宗像に再訪する際にはぜひ御参りに伺いたい場所です。

この場を借りて、お世話になりました宗像現代美術展実行委員会の皆さま、すべての関係者の皆さまに御礼申し上げます。

MATHRAX