2023年7月8日(土)− 8月27日(日)、大阪府堺市の文化観光施設「さかい利晶の杜」にて開催された展覧会『茶の湯に吹く風 みる・きく・ふれる・現代アート』にて展示した《うつしおみ》のご紹介です。

うつしおみ  U tsu shi o mi
形 態:インスタレーション
制作年:2019
素 材:木、電子部品、LED照明、香料
サイズ:可変
協 力:茅ヶ崎市美術館、花王株式会社 感覚科学研究所

Photo: Kenji Kagawa / Model:Mieko Asada

協力:茅ヶ崎市美術館、花王株式会社 感覚科学研究所
photo: Kenji Kagawa / Model:Mieko Asada

茶の湯の世界と《うつしおみ》

 《うつしおみ》は、「今この世に生きている人」という意味を持つインスタレーション作品です。一列に並ぶ木のオブジェにふれながら、ひとつづきの道を歩くように体験します。

 この作品は、2019年、視覚障害をもつ小倉慶子氏と、そのパートナーである盲導犬のリルハと共に、茅ヶ崎(神奈川県)の街を歩いた体験から着想を得て制作しました。彼らの歩みには、お互いのつながりを推進力としたリズムがあり、私たちには、彼らが生と死の境界を軽やかに進んでいくようにも見えました。

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 この《うつしおみ》のねらいは、この2者の関係性を、体験者と体験者自身の手という形に置き換えることによって、誰もが自分と自身の手の紡ぎ出すリズムを感じられることにあります。

 体験者は、自分自身が感じているもの、あるいは指の感覚、空間の変化など、さまざまな場所への意識の移行があり、それらが今現在の目の前の世界を作り上げています。これは、茶の湯における亭主と客との一座建立(いちざこんりゅう)や、賓主互換(ひんじゅごかん)の境地にも通じ合う部分があるでしょう。体験者の意識が、風のように空間上を移りゆくことで、今まさにその人独自の新しい世界を創造しているのです。


香りと調香のコンセプト(香料制作:花王株式会社 感覚科学研究所)

 この作品では、展覧会のテーマや会場の場所に合わせた香りを新しくしつらえています。
今回の香りは、堺の風を感じながら茶室へ向かう時の露地、千利休の侘び茶と草庵、亭主のお点前の後、世界の変化を感じながらまた日常へ戻るというような色即是空 空即是色の世界を表した、3つの情景をイメージしています。

1、風 …露地を吹き抜ける風
  ダイダイ(夏の風)、ミュゲ(打ち水と苔)

2、玄 …陰翳と無限の間
  パチョリ(ほの暗さ)、お香の香り(茶室空間)

3、妙 …新たな世界・静寂と永遠性
  ラブダナム(静寂)、ベンゾイン(永遠性)


 3つの円環する香りについて、今回もコンセプトの内容を丁寧に汲んでいただき、繊細な調香をいただきました研究員の皆さま、また、展示の実現に向けて企画段階よりご尽力くださったさかい利晶の杜の皆さま、全ての関係者の皆さまに御礼申し上げます。

MATHRAX