12月1日(土)-2日(日)に開催された「Ogaki Mini Maker Faire 2018」(岐阜県大垣市)にて、高等学校生、専門学校生と作り上げた作品「Transit(トランジット)」を展示しました。その様子をご紹介します。
大垣の枡(ます)を題材のひとつに
Transit
通行、通過、変遷、変化などの意味合いを持つこの作品「Transit(トランジット)」は、
水、大垣産の枡、情報技術を題材にしたサウンドインスタレーションです。
枡を前後にゆらすと、水をイメージしたサウンドが、枡の傾きに応じて奏でられます。
この作品は、「つながるサウンド 木と電子回路と音のワークショップ」(IAMAS先端IT・IoT利活用啓発事業2018)を経て、参加者である大垣の高等学校と専門学校の生徒たちと一緒に作り上げました。
ワークショップ
この事業の目的やテーマは、アーティストやデザイナーとともに、
IoT(Internet of Things)の技術を使ってどのような未来を創造できるか共に考えること。
私たちはIoTの簡単な概念や接続の方法を紹介しつつ、
IoTにおいて何をつなぎ、そこにどのような意味を持たせるかについては
制作者の「自由」である、ということをMATHRAXの制作スタイルや作品を通して紹介しました。
今回はmicro:bitやRaspberry Piを使用
今回、私たちが生徒たちと挑戦しようと思ったのは、IoTの技術や概念を使った美術作品を作ること。
美術作品というと、絵や彫刻を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、
古今様々な技術や道具と人の関わりにおいて制作や研究活動を行なっていると
私たちの日常に関わりの深い「情報技術」も、表現のためのメディウムの一つに成りえてくるのです。
私たちが普段から芸術や美術に関わりたいと考えている理由は、
誰でもある問いについて自由に考えることができ、それを表現し、人々と共有し議論できるからなのですが、
それは「人間って何だろう?」という根源的な問いを皆で考えていくことにもつながっています。
水の音のプログラミング
私たちは、IoTには欠かせない情報とプログラミングの技術を使い、
まずは自分の中の水のイメージを音にしてみることに挑戦しました。
また、枡の中にいれた水の音が傾きによってどのように変化するかについても想像を膨らませ表現してみます。
水の音はSonic piで制作、micro:bitの加速度センサで音も変化する
水の音は録音したものを使用するのではなく、あくまでも
自分の中の水のイメージ(水滴、深海、海のさざなみなど)を探りながら、音の波形を編集して作ります。
人がそれぞれに捉えている水の質感を、別のメディウム(今回は情報)を使って表現してもらうために
自分の気になる要素を多角的に掘り下げていきます。
木工作業
この作品制作では、プログラミングだけではなく木工作業も一緒に行いました。
木の表面を水の表面に見立てて削ってもらいながら、水の肌触りや質感を想像してもらいます。
集中して手作業を行うと触覚が研ぎ澄まされ、不思議と清々しさを感じます。
生徒の皆さんはそれぞれ、かなりこだわって磨いてくれましたが、
作ったものに愛着を感じられると、どこかこちらまで嬉しい気持ちになります。
プログラミングも木工作業も作業自体の違いはありますが、
水を直感し、対象に没入し、内観ないし客観、試行錯誤しながらある形にしていくそのプロセスは同じ。
自身がその本質に近づき、イメージを外につなげていく触媒になるということだと考えています。
新たなものの見方の発見は、このような身心を伴った共感から来るのではないかと思っています。
作品「Transit」まで
私たちは生徒たちの作った音のイメージをインスピレーションに
作品展示を行うギャラリーの特徴もふまえた展示プランを練ることにしました。
段差のある空間に13人分の枡を配置するアイデア
Transitというインスタレーションは、生徒たちの捉えた水の様々な面、
もしくは目には見えない情報の流れを、音によって体験する作品です。
枡は本来、情報を測量し出入りさせるための道具として使用されるものですが、
揺れることによって、流れてゆく情報を水の音に変換する装置として機能しています。
このイメージとしての水は、私たちの中にある水のイメージを断片的に喚び起こし、
さらに新しい水の様相を感じさせてくれるようでした。
Transit
参加者の皆さんの感想
参加者の皆さんからいただいた感想を一部紹介いたします。
電子工作、工業もアートになるということに驚いたし、素敵だと思った。音楽などの自分の好きなことと工業を結びつけることができるのがすごいと思ったし、学校では木を削ったりすることはあまりしないけれど、コツを掴んだらとても楽しい。
はじめはどんなことをするワークショップなのか想像がつかなかったが、充実した1日だった。プログラムもただ打つだけではなく、考えてやらなければならないし、重い道具を持って木を加工するのも大変だと思ったけれど、ひとつの作品をつくるのは楽しい。達成感が得られる。
最近、ものづくりでできることが増えたけれど、音を楽しむというIoTの考え方に触れることができ、いい刺激になった。
久しぶりにプログラムをさわった。いつもは数字が変わるなどの内容だけど、今回は音。作った後も気持ちがいい音だなあと感じることができて非常に楽しかった。
プログラムはもともと苦手だったけれど、水の音を作るという内容は楽しかった。木を磨く作業も、ピカピカにできて楽しかった。
普段できないことばかりですごくいい体験になったし楽しかった!micro:bitとラズパイは今後も自分たちで使っていきたい。
また、今回、参加してくれた生徒さんたちはとても優秀で、プログラムも木工も少しコツを掴めば
どんどん自分たちで新しいことに挑戦していけることが素晴らしかったなあと思い返しています。
ワークショップを通して「こういうことをやってもいいんだ!」と自由な発想を引き出してくれたことも嬉しく思っています。
ワークショップの最後に、生徒の皆さんが作り上げた音を空間上に巡らせた時の音は本当に美しく、まだ印象に残っています。皆さんにまたいつかお会いできるのを楽しみにしています!
大垣工業高等学校、日本総合ビジネス専門学校の皆さん、大橋量器さん、
母校、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂先生、市橋さん、事務局の皆さん、八嶋有司さん、
RCICの皆さんにこの場をかりて御礼申し上げます。
主催:情報科学芸術大学院大学[IAMAS](IAMAS先端IT・IoT利活用啓発事業2018)
協力:大垣工業高等学校、日本総合ビジネス専門学校
MATHRAX