2016年に「じぶんのまわり」展(茅ヶ崎市美術館)で展示された作品「いしのこえ」のご紹介です。

この作品は、茅ヶ崎市美術館の協力のもと、
茅ヶ崎市立西浜中学校、松林中学校の美術部の皆さんとワークショップを通して作り上げました。
 

photo kenji kagawa

石にふれると…

作品に使われている石は、生徒の皆さんが自分のピンとくるものを
茅ヶ崎の海岸からひとつ選んでくれたものです。
 

いしのこえ movie

作品「いしのこえ」は、人が石にふれることで音を奏でます。
この作品では石に電気をまとわせて、人と石がつながった時に音を発するしくみになっています。

実は、私たち人間の肌も普段から電気(イオン)をまとっています。
私たちの体は、肌のイオンの状態でその人の健康をチェックしているのです。
私たちの体は電気を媒体にして、私たちを見ているのです。

情報にも似ているところがあります。
私たちは普段スマートフォンやタブレットから必要な情報を取り出しているように思えますが
別の見方をすれば、人が情報を運ぶ中継点になっているとも言えるのです。

もはや人間もIoT(Internet of Things)の一部で、
情報を中継する「もの」にすぎないのでしょうか?

精神病理学者の木村敏氏は、
ある「もの」に対して生命を見出す人間の意識の指向性こそが
「人が生きていることの根源」だと言いました。

あらゆる情報の中からどのように自分の感性を使って、世界を見つけ出すか?

わたしたちは、見えないものをみえるようにする力を「感性」と呼びます。
身体の指向性ともいえる「ふれる」行為を通して、
その感性や共感を呼び起こす作品を作りたいと考えました。

 
 
 

石とあそぶ電子工作ワークショップ「石の声を聴くにはどうしたらいいだろう?」

 
ワークショップのテーマは、
「あらゆる情報からどのように自分の感性を使って、世界を見つけ出すか」ということ。

展覧会のタイトルでもある「じぶんのまわり」は、まさにこのテーマから生まれたもので、
この展覧会でも「この情報に溢れた世の中でどう過ごすか」という問いに対する
私たちのひとつの見方を提示できればと考えていたのです。

 
自分の感性がどんなものなのか?
このことをはっきりと自ら伝えられる人は少ないでしょう。

このワークショップでは、
何かを選びとる自分自身の感性にふれてもらうような作業と、
他の人からその感性の特徴を名付けてもらえるような体験ができれば、と考えていました。
 
 

イントロダクションではトラッカーの方の話をまじえて

 
このワークショップのインスピレーションとなったのは、
以前あるお仕事の中で、自然の中で動物を追う「トラッカー」と呼ばれる技術を持つ人に出会ったこと、
そのトラッカーの案内で、久世が森の中にいる猿を追った体験、
そして、同じ技術を使って生きた最後のネイティブアメリカンについて書かれた書籍でした。

広大な森の中のあらゆる情報をどのように見るか、自分の知識や経験と組み合わせてどう感じるか…
トラッカーの目線や感覚は、私たちにとってまるで新しい世界を見るような体験で、
日常の風景の見え方さえ変えました。

また、ネイティブアメリカンの方の中には、自然や石の声を聴く能力に長けている人がいるそうなのですが
(書籍の人物は、この技術を習得するためにあらゆる思索と実践をしていくのですが、
その本質にたどり着くまでの苦労も書かれていました)
彼らの自然に対する向き合い方は、まさに哲学そのものです。

 
 
今回のワークショップでは、
その哲学的な問いともいえる「石の声を聞くにはどうしたらいいだろう?」にふれ、
また、普段私たちが行っている電気を使ったアプローチを体験してもらう機会にもなりました。

ここからはフォトグラファーのYoshiko Kawanoさんが撮影してくださった回の様子をご紹介します。

 
 
 

photo Yoshiko Kawano


 
 


 
 
 


 
 
 

石の印象を絵や言葉にしてみる


 
 
 


 
 
 

はんだ付け

 
 
 

 
 
 

石の声は聴こえる?

 
 
 

もしかすると音じゃないかもしれない

 
 
 

選んだ石にはその人らしさが表れているような…

周りの人に愛称をつけてもらうのは少しはずかしい?

 
 
ネイティブアメリカンの方々は、
インディアンネームというその人の特徴や特技を表す愛称のようなものをつけてもらうそうです。
(例えば、警戒心の強い狼を追うのが上手い人には「ストーキング・ウルフ」という名前など)

今回は、選んだ石の印象などと合わせて友達同士でインディアンネームをつけてもらいましたが
興味深いのは、人から何かを名付けられる際には、少なからず
自分のイメージとの差異(納得感や違和感)が生まれているということでした。

意外にも自分の肌に合って嬉しそうだったり、
自分らしくないので別の名前に変えて欲しいよ!と言いたげだったり、反応はいろいろ。

たしかに自分の印象を人にじっくりと見てもらうというのは、少しドキドキしますが、
そういう時にこそ、自分自身も気づいていない「本当の自分の輪郭」を
感じることができるような気もしたのでした。

 
 

お力添えをいただきました関係者の皆さまに、この場を借りまして御礼申し上げます。
また、展覧会のドキュメントに素晴らしいお言葉をくださった松林中学校美術部顧問の山本先生にも
重ねて感謝申し上げます。

 
 
〈制作〉
  久世 祥三・坂本 茉里子/MATHRAX
〈コラボレーション〉
  茅ヶ崎市立西浜中学校・茅ヶ崎市立松林中学校の先生と美術部の皆さん

〈作品映像撮影〉小林温志
〈作品写真〉kenji kagawa
〈ワークショップ写真〉Yoshiko Kawano
〈ワークショップ映像撮影・編集〉小島幹太、水戸夏暉
〈協力〉茅ヶ崎市美術館、山谷萌

 
 
MATHRAX