2022年9月24日(土)− 10月16日(日)、豊中市立文化芸術センターにて、開催された展覧会「光さす間に」にて展示された《うつしおみ》のご紹介です。

協力:茅ヶ崎市美術館、花王株式会社 感覚科学研究所
photo: Kenji Kagawa / Performance: Chiaki Ishigami

〈展覧会キャプションより〉

推進力に乗る

 《うつしおみ》は、「今この世に生きている人」という意味を持つ。現身(うつしみ)は常世(とこよ)と対をなす言葉である。

 この作品は、制作のコラボレーターとして、盲導犬ユーザーの小倉慶子氏とそのパートナーである盲導犬のリルハと共に制作したものである。視覚情報のない街を歩くことがどんなに大変なことか、試しにやってみるとすぐに分かるだろう。だが、彼らは本当に楽しそうに歩くのだ。そこにはリズムと推進力が生まれ、彼らは生と死の境界を軽やかに進んでいく。道すがら紡ぎ出していく様々な風景を楽しみながら。


〈今回の香りについて〉

「うつしおみ」の展示には、その時々に合わせた香りを共にしつらえている。今回の香りは、世阿弥が、芸の位の最高位とした「妙花風(みょうかふう)」を、それぞれ「妙」「花」「風」に分け、花王株式会社 感覚研究所の研究員の方に調香いただいた。

風 …草原を通り抜ける初秋の爽やかな風

   プチグレン(オレンジの枝)〔初秋の風〕
   ラベンダー〔風に香るハーブ〕
   ローズマリー〔澄み切った空と冷たい空気〕

花 …人々を魅了する花

   テイカカズラ〔優しさ/アメノウズメノミコトが頭に飾った花〕
   ローズ〔華やかさ〕

妙 …人智を超えたたたずまい

   オリバナム(乳香)〔神聖さ〕
   セダーウッド〔心の静けさ〕
   パチュリ〔鎮魂〕


《うつしおみ》は、「光さす間に」展に出展された5作品のうち、3番目に構成された作品です。
屋上テラスに設置された《とこよのうたよみ》が、「常世(とこよ)」と言われる〈この世ではない異界〉を表現しているのに対し、1F展示室に設置された《うつしおみ》は「現し身(うつしみ)」という〈今この世に生きている人〉を表しています。

例えば、本を読むとき、私たちはしだいにその世界の中に入り込み、時には没頭しています。気づけば、推進力のある流れに乗っているのです。時には、周囲の風景や時間感覚が変わって感じられることもあるでしょう。
この作品では、推進力を作り出し、そこに自らも乗り、そこに遊ぶような人の意識の働きに注目しています。

作品の体験中に出会える香りは、「初秋の」「この世から異界へ移る時の変化()の香」「人知を超えたの世界」の3種類。それぞれの香りが同じ空間内でも効果的に香り、また香料の内容もコンセプトにしっかりと沿うように、繊細な調香をいただきました。ご協力をいただきました研究員の皆さまに、御礼申し上げます。(香料制作:花王株式会社 感覚研究所)

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